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最終夜 -ありがとう- @Hanoi [Vietnam]

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ハノイの空港は、一国の首都空港というには、物悲しい雰囲気だった。

建物や設備は、古い日本の地方空港のようで、
やたらとスペースを取っている免税店と並べられたブランド品が、
余計にそのギャップを際立たせた。
ロビーのだだ広いスペースと古臭いベンチは、
明るくきらびやかな免税店とかけ離れていて、
物悲しさを色濃くしていた。

食事が出来るレストランも一ヶ所だけで、しかもドルしか受け付けてない。
免税店だけでなく、お菓子を売る売店すらドル表示で販売するだけで、
旅行客が手元に残したドンは両替所で再両替するしか道はなかった。
外貨獲得に力を入れる社会主義国の一面がこんなところに垣間見える。
誰が$5もするポテトチップを買うのだろう?

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バンコク行きのエア・アジアの搭乗がはじまる。
「自由席」と案内されていたが、搭乗口にはそれほどの人はいない。
3人席の真ん中に座るようなハメには陥らなそうな気配なので、
いつものように搭乗口に人がいなくなるまでロビーに腰掛けていた。

3席と3席の並列シートの通路側に腰掛けたのを覚えているが、
機内食も出ないことをいいことに、シートベルトを締めたとたん、眠りについた。
気づいたときはバンコク・スワンナプーム空港へラウンディングした時だった。

こうして『インドシナ周遊』の旅は終わったが、
ヴェトナムを縦断しながらずっと気がかりだった謎があった。
奇しくもその謎はバンコクで解けることになる。
「解けた」というよりは「解いた気になった」が正確な表現だろうか。

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ヴェトナムを二週間歩き続け、まったく出会わなかった「言葉」がある。

「ありがとう」だ。

食事をしても、水を買っても、お金を払っても、別れを告げても、
商売や店、ビジネスのシーンでこの言葉を最後まで聞くことがなかった。

こちらがベトナム語で「ありがとう」を意味する「Cam On(カム・オン)」といっても、
英語で「Thank You」と告げても、品物を受け取り、お金を払っても、
相手の口からこの言葉が出てくることがなかったのだ。

旅行者なら誰でも経験したことがあるだろうが、
その国の言葉で「ありがとう」と告げれば、
オウム返しのように「ありがとう」という言葉が返ってくる。
あるいは英語でいうところの「どういたしまして」という言葉が返ってくる。
どちらにしても反射的に返ってくる言葉なのだ。
ヴェトナムでは何語で「ありがとう」と告げても、無言だけが返ってきた。

ことによると「外国人の一人旅」を警戒して、言葉をかけてもらえなかったのかもしれない。
あるいは「アヤシイ男のアヤシイ言葉」に慄き、声をかけてもらえなかったのかもしれない。

しかしその懸念は、バンコクの町を歩くことで霧散した。

バンコクでは、あたりまえのように「ありがとう」が相手の口から沸いてきた。
年配のオジサンからは「Khob khun Krab(コップン・クラップ)」といわれ、
時には「Khob khun Ka(コップン・カー)」と両手を合わせてあいさつされることもあった。
(タイ語では男性と女性では語尾が変わる)
こちらがなにもいわなくても、かならず相手の口から「ありがとう」がこぼれ落ちた。
こちらが両手を合わせれば、かならず相手も両手を合わせながら「ありがとう」を返してくれた。

タイが敬虔な仏教国であることを差し引いても、
旅行者としてのこちらの態度の善し悪しが原因ではなかったのだ。

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この「ヴェトナムの謎」について、いろいろと考えを巡らせてみたが、
結論は「社会主義国であったから」というところにしかたどり着かなかった。

親切な人、優しい人、シャイな人、ヴェトナムでたくさんのいい人に出会い、
「Cam On」(ありがとう)を聞けなかった理由がこれ以外に見当たらない。

かつて社会主義の大国であった「ソ連」では「『ありがとう』という文字は辞書にない」といわれた。
中華人民共和国では「『ありがとう』という言葉は有料」なんて揶揄もされている。
「ドイモイ」による開放政策が進んだといえ、この国の体制はいまだ社会主義だ。

長い間、閉ざされた国で暮らしてきた人々が、
外の国からきた人々に馴れていないことはわかるが、
「ありがとう」という言葉、
あるいはそれを口にすることにも慣れていないのではないだろうか。
滞在中の経験と記憶では、そんなヘンな結論にしかたどり着かなかった。

今度、この国を訪れたときは「ありがとう」を聞けるだろうか。

小さなクエスチョン・マークを抱え、旅を終えた。


ー完ー

22, JUN. 2007 - 10,JUL.2007

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目次

第一夜  -始動-
第二夜  -国境-
      -入国-
      -移動-
      -街道-
      -到着-
第三夜  -休息-
第四夜  -停滞-
第五夜  -遺跡-
      -祠堂-
      -情景-
      -夕闇-
第六夜  -早朝-
      -灼熱-
      -日式-
      -越境-
第七夜  -安宿-
      -市場-
      -珈琲-
      -道路-
第八夜  -酒宴-
      -路肩-
第九夜  -言葉-
      -海岸-
      -夜行-
第十夜  -朝食-
      -情報-
      -充足-
第十一夜 -熱中-
      -郵便-
      -店内-
第十二夜 -古都-
      -果物-
      -香江-
      -発見-
第十三夜 -王宮-
      -遊戯-
      -電器-
      -返品-
第十四夜 -首都-
      -確定-
      -岐路-
      -台風-
第十五夜 -団体-
      -乗船-
      -船内-
      -下船-
第十六夜 -食事-
      -圏外-
      -李果-
      -晩餐-
最終夜  -週末-
      -休業-
      -出立-
      -ありがとう-


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Ryukoまま

「ありがとう」
この言葉を言わない裏側には
いろいろなことが隠れているんですね・・・。

今度訪れたとき、その言葉を聞けることを祈っています。

「ありがとう」っていい言葉ですものね。

とても楽しく、一緒に旅をさせていただきました。
どうもありがとうございましたヾ(=^▽^=)ノ
by Ryukoまま (2009-01-18 17:25) 

斗夢

ドキュメンタリー番組を見る思いでした。
「ありがとう」は日本で全ての大人も子供も言っているだろうかと
しばし考えました。
by 斗夢 (2009-01-18 18:16) 

あひるのドナちゃん

こんにちは&ありがとうは基本だと思っていましたが、お国によって様々なんですね・・・。
by あひるのドナちゃん (2009-01-18 20:12) 

delfin

>Ryukoままさん
長々と遅々として筆が進まず、ようやく完遂しました。
旅日記、とはいえ、ブログの更新は大変ですね~
ブログ初心者としてはかなり苦労しました(>_<)

>斗夢さん
お褒めの言葉、ありがとうございます!
日本の大人は言わないですね。
「すみません」がとても多いと思います。
重宝なこの言葉がわたしはあまり好きではありません。
出来る限り、「ありがとう」を使っています。

>あひるのドナちゃんさん
旅先では「基本」の言葉だと思います。
「こんにちは&ありがとう」はツアコン時代、お客さんにも使ってもらおう、と10か国語ぐらいは覚えました。
なかでもトルコ語の「ありがとう」が秀逸です(笑
by delfin (2009-01-18 22:45) 

びぃちゃ−

素敵なステンドグラスですね。
ありがとうって 言わない国もあるんですね。
ブログランキングって クリックするだけでいいんですか?
押すだけは 押しましたけど その後何か
するようなら言ってください。(^^)
by びぃちゃ− (2009-01-18 23:41) 

delfin

>びいちゃーさん
ステンドグラス、かなり好きでいつも多めに写真を撮ってしまいます。
ステンドグラスやフレスコ画って、文字が読めない人のへのマルチ・メディアなのですよね~。

クリックありがとうございます!
おかげさまで「旅」ランキングで10位になりました!!
by delfin (2009-01-19 15:27) 

yasu_a

ステンドグラス素晴らしいです!!
by yasu_a (2009-01-19 18:01) 

pi-ro

キレイですね~
ありがとうを言わないのですか。学校でも教えないのかな? もしかして先生も言わないのかな。
by pi-ro (2009-01-19 19:54) 

delfin

>yasu_aさん
ポルトガル訪問でもたくさんステンドグラス撮影しました!
http://delfin.blog.so-net.ne.jp/archive/c2300227797-1
よかったら、覗いてみてください!

>pi-roさん
「ありがとう」はわたしの穿った見方かもしれません。
でも二週間で一度もなかったのです…
言葉まちがえて認識してたのかな?(笑
by delfin (2009-01-19 22:30) 

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