第十五夜 -湾内- @Ha Long Bay [Vietnam]
船上のルーフの上で眺めていると、恋焦がれていた風景が向こうから近づいてきた。
他の観光船も群れている湾を過ぎると、奇岩に迫るほどの狭い航路を進む。
気づくと独り占めだったルーフには船内のホトンドの客が上がってきていた。
すぐに見飽きて、エアコンが効いたキャビンに降りていく客もいれば、タバコをくゆらす客もいる。
自分と同じように熱心に一眼レフのシャッターを切る客とは目が合い、なんとなく笑いあった。
ある程度、奥まった港内に進むと、ガイドが声高だが、ズルズルの英語で案内をはじめた。
「小船に乗り換えてくだサーイ。洞窟を観に行きマーす」
クルーズ船から船外機がついた小船に乗り込む。
ハロン湾に住む地元の船頭がミニクルーズの案内をしてくれるらしい。
20人ぐらい乗っていたのだろうか、隙間なく詰めて座ると、小船は動き出した。
洞窟、というよりは奇岩にできたトンネル上の穴。
波の侵食で削られ、きれいなアーチ状の形を成している。
その洞窟を潜り、眺めることはどうでもよかったが、
小船の低い視点で、見上げるように奇岩を眺められたことに感激し、気づけば多めに写真を撮っていた。
3つほど洞窟を眺め、クルーズ船に戻る。
船頭さん、というには若すぎるカレにチップを渡し、ワン・ポーズ撮影させてもらった。
ハロン湾、漢字で書くと「下龍湾」と記す。
その昔、中国の王朝がこの地方にまで侵攻してきた際、
龍の親子が現われ、敵を退けると同時に口から宝石を吐き出し、それが湾内に点在する島々になった、
というのがこの地にまつわる伝説だ。
奇岩を生成したのは石灰岩、南のニンビンから北は桂林へ続く広大な石灰岩台地によって育まれた奇景である。
ここは水墨画のような風景が連なる桂林・漓江下りのあの奇景と同じ大地なのだ。
ハロン湾は点在する奇岩の影響で波が少なく、水面は穏やか。
かつては海賊の隠れ家ともなったらしいが、その穏やかさを利用して水上で生活する地元民も多く、
住宅はモチロン、学校までが水上に備わっていた。
途中、鍾乳洞の見学に立ち寄り、ガイドは「一番の見所」と奮起していたが、
規模も内容も物悲しく、鍾乳洞を見慣れた日本人にすればどう考えても蛇足の観光だった。
のどかな風景を撫でながら、船は進む。
小船の見学も鍾乳洞見学も消化し、ツアーのイベントは終了。
あとは帰り道だ。
船のルーフはサンテラス状態で、Tシャツを脱いで昼寝するものもいれば、ビールを楽しんでいる客もいた。
一眼レフとは別に携帯で風景を撮っていると、船員とガイドが食いついてきた。
「日本の携帯ですか?」
「そうですよ、でもこっちじゃ使えない。写真を撮るだけ」
「日本の携帯はデザインがきれいですね、とても興味があります」
そういう彼らを撮影して見せると、かじりついてみていた。
誰でも最先端の技術は好きなのだ。
「ツアーは終わりで、もう戻るだけでしょう?」
「そうですね、でもこの船はカットバ島へ寄ります。キャンプの客を降ろすためです」
「キャンプができる島があるの? いいなあ。ハノイでは『ハロン湾では台風で宿泊できない』と言われたよ」
「昨日、台風が来ましたから。ツアーで泊まる船の中は波で揺れますから」
「でも、この天気?」
「そうですね、船長も驚くほど晴れた、といってます」
「日焼けするほどね」
他のクルーズ船もいない貸切の海の上、
太陽光に見降ろされながらのんきな会話が続いた。
そしてこのカットバ島への立ち寄りが、安いだけのこのツアーにおもわぬ副産物をもたらすことになった。
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2009-01-06 22:50
nice!(11)
コメント(4)
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お越しいただきniceをアリガトウございます。
一緒に旅を楽しませて下さいね。
by yakko (2009-01-07 17:09)
>yakkoさん
コメントありがとうございます!
遅々として進まない旅行記ですが、がんばって更新してます!
by delfin (2009-01-07 18:19)
はじめまして
ご訪問ありがとうございます。私も以前、仕事でベトナムに行きました。
by chal (2009-01-07 18:23)
国内外旅行出来ない身にとって魅力あるブログかと
時々 お邪魔させていただきます。
by ララアント (2009-01-07 20:07)