第十三夜 -電器- @Hue [Vietnam]
二杯目のコーヒーを飲み干すと店を出た。
ゲームのルールを覚えるのは得意なほうだが、繰り返し見ていてもわからず仕舞いだった。
言葉も通じない状態で、割って入るほどの勇気は起きず、傍観者を決め込んだ。
眺めていると、強いヤツと弱いヤツというのが明確に見えてくる。
勝っているヤツは弱い手札でも強引に押し、負けを引かない。
負けているヤツはいい手札でも勝負にいけず、小さな勝ちで終える。
勝っているのは「ゲームがうまい」わけではなくて「勝負に強い」ヤツが勝つのだ。
このあたりはあらゆるゲームにおける万国共通の機微ですなあ。
人のギャンブルを眺めていることにはさすがにすぐに飽きて、おばさんにコーヒー代を払うと自転車にまたがった。
テーブルを囲む彼らが陽気に手を振って、見送ってくれる。
くわえタバコが粋だ。
あてもなく自転車をこぎ出したが、買わなくてはいけないものがあったことを思い出し、市場に向かった。
実は旅の途中でヘッドフォンを壊してしまったのだ。
今回はMP3プレイヤーを持ってきていたが、旅の途中でヘッドフォンのラインを引っ掛け、
コードを切って、壊してしまっていた。
バスや列車の移動時には本に浸っているし、カフェや食堂では街のノイズに浸るのが好きなので、
旅先ではあまり音楽は聞かない。
日常生活で音楽は欠かせないが、旅先では安宿で街の喧騒に浸っているのも楽しい。
アメリカのモーテルのように部屋にラジオが備えうけられていれば、それはそれでうれしいが。
今回は繰り返しの夜行バス、テレビもないであろう安宿で過ごすことになる日々だろうと見越して持ってきていたのだ。
馴れないことはするものじゃない。
用意周到で持参してきたわりには早々にヘッドフォンを壊して、
おかげでニャチャンからホイアンへの夜行バスは退屈との戦いとなった。
このときは急に夜行バスに乗ることを決めたので、ヘッドフォンを買うことまで頭が回らなかったのだ。
フエの街は香江で南北に区切られ、橋で結ばれている。
ホテルなどが点在する南側の新市街と王宮がある北側の旧市街は、
東側のチャンティエン橋と西側のフースアン橋が結んでいる。
さらに西へ向かえば、別の橋があるのかもしれないが、フエの中心部にはこの2つの橋しかない。
この街のサイズで中心地にわずか橋2つ、なのだ。
旧式で狭い、2つの橋の上は当然のようにいつもクルマであふれている。
バイクは詰まったクルマをあざ笑うかのように駆け抜けていくが、
あまりの狭さと交通量で自転車はとても通れたものではなく、歩行者に気を使いながら歩道を進む。
新市街から王宮を正面に見据え、橋を渡る。
橋を渡りきり、東側、つまり右手に折れると、フエの街で一番大きな市場であるドンバ市場(Cho Don Ba)が陣取っている。
無造作に置かれた自転車の山に割り込むように自分の自転車を差し込もうとすると、笛を吹かれた。
制服を着た警備員がいて、取り締まっているらしい。
どうせ取り締まるなら、きちんと並べて停めるようにして指導してくれ、といいたくなるぐらいの乱雑ぶり。
ところが、笛の勢いからすると勝手に停めてはいけないらしい。
じゃあ、どこに停めるんだよ、と悪態をつきたくなるが、笛の持ち主は「ダメ」の一点張り。
途方に暮れかけていると、脇に若い男の子が乗った自転車が滑り込んできた。
アッという間に停めてカギをかけると、こちらに目で合図して、市場に消えていった。
そう、警備員が見ていない間に停めてしまえば、OKなのね。
彼の目配せはそんなことを意味していた。
その彼にならって、すばやくカギを抜き取り、市場に潜り込んだ。
ドンバ市場は精肉、鮮魚、青果に食料品、花にお菓子に洋服まで売っている。
日本やアメリカのスーパー並に「ないものはない」という品揃え。
ヴェトナムのスーパーは「ないもの」はたしかに無かったけど。
他の市場と違うのは、お菓子の詰め合わせや珍味のパッケージも売っているところか。
国内の旅行客向けなのだろうか、外国人観光客は買わないであろう、
「ひと昔前」という印象のお菓子の折り詰めが、市場の奥のほうで山のように積まれている。
盛んにお菓子類の試食を勧め、買わないか、と声をかけられたが、
商売するならもう少し客選んだほうがいいですよ、というようなシロモノ。
品物が悪い、とかではなく、男の一人旅はそういうものは買わないよ、ということです。
乾物からオモチャまでが詰まっている市場では捜し歩くより、聞いたほうが早い。
試食のお菓子を振舞っていた店員にやぶからぼうに「ヘッドフォン売ってない?」と尋ねてみた。
もちろん英語は通じず、耳に指を当てて、身振り手振りの質問だ。
「ここにはないよ、電化製品や携帯電話は通りの向こうに売っているよ」
市場を出て、通りを渡って・・・とモノシリ顔の若い店員は腕と指を激しく動かしながら答えてくれた。
用がなくなった市場に別れを告げ、
停めておいた自転車をそのままにし、
横断歩道もなにもないだだ広い大通りをクルマの波を避けながら、渡る。
渡り切った通りの向こうのあった路地には小さな電器店や携帯電話ショップが建ち並んでいた。
先日、ヴェトナム料理食べました。おいしかったです~
ご訪問ありがとうございました
by pi-ro (2008-12-22 20:50)