relaxation paradise @Palau [Palau]
ミルキーウェイの興奮を船内に残したまま、ボートは動き出した。
「泥」という言葉が似つかわしくない海底から現れた真っ白なそれは、
肌理の細やかさから「美白効果」を詠ったせいか、
客たちの腕や足、顔までも白く染め、笑顔とともに船内を大いに散らかしていた。
子供の「おイタ」が大人の都合で終わらせられるかのように、
それらは出発する前には海水でキレイサッパリ洗い落とされた。
ガイドやキャプテンは手馴れた感じで、しかも荒っぽく洗い流しはしたが、
シートの隙間や誰かの水着には忘れられたように白いこびり付きを残していた。
「次はシー・カヤックのポイントに向かいます。
カヤック・ツアーに申し込んでない方はその間、
別のスノーケリング・ポイントに案内しますね」
ふたたびけたたましい音を立てはじめたツインの船外機に負けないよう、ガイドが叫んでいる。
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しばらく走ると小島の間に設えた浮島が現れた。
その上でカヤック専属の担当が待ち受けていて、
ボートから渡ったカヤック・ツアー参加組のそれぞれに2人乗りのカヤックをアレンジしている。
あなたは朝からそこにいるのかい?
生憎、お金を払って働く気はなかったので、カヤック・ツアーは見合わせた。
汗水垂らして櫓を漕ぐよりもだらけてボートの上で本でも読んでいるほうが性に合っている。
ボートから8割方が降り、家族旅行の大きなグループと年配と呼ぶには早いご夫婦と、
一眼レフを持ったアヤシイ一人旅オトコが船内に残った。
「楽しんできてね!」
ガイドの先導に連なる面々に声をかけるとみなが笑顔で手を振っていた。
少しばかり警戒心が解けたのだろうか、こちらの問いかけに応えてくれる。
あるいはアヤシイオトコから遠ざかっていけるので、安心しているのかもしれない。
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軽くなったボートは外海を大きく回り、スノーケリング・ポイントでアンカーを下ろした。
外海に向かって開けた場所なのだが、あまり深くなく魚が多くいるポイントらしい。
潜ったところでローカル・ガイドが渡すスナック菓子を手にするとサカナまみれになれるようだ。
最後にメインどころのスノーケリング・ポイントが繰り込まれていたので、
ここでは海に入らず、デッキでのんびり文庫本を開いた。
デッキ、といっても舳先の小さなスペースだが、
ノイズもない世界、静かに揺れる小船でのひとときはなかなか至福だ。
「海、入らないの?」
エサやりを終え、上がってきたローカル・ガイドのオンナのコが話しかける。
「まだあとにも潜れるポイントあるんでしょ? 楽しみは取っておくよ。
それにジェリーフィッシュ・レイクがメインなんだ、それまでに泳ぎ疲れちゃうよ」
「それはいい作戦かもね。後半はクタクタになっているお客をよく見るわ」
「ねえ、彼はナニしているの?」
客のいない船尾ではキャプテンがバケツを抱え、なにか細かい手作業をしていた。
尋ねながら近寄って手元を覗き込む。
「ナニ作ってんの?」
「コレかい?『TET』だよ。わかる? こうやって齧るのさ」
なにやら木の実をむしり、それを白い石灰の粉と一緒に葉っぱに巻き、
巻きタバコのようなものができ上がると口に放り込んだ。
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「ソレが『てっと』か!
ビンロウの実だろ、英語でなんというか知らないけど、わかるよ」
「わたしはコッチが好き、これは『KEBUI』というのよ」
彼女は『ケブイ』と呼ばれる葉のほうを口に含んだ。
「『TET』に『KEBUI』ね、売店に貼ってあったアレか!」
「あ、そうそう。みんな街なかの売店で買うわ。アナタも噛んでみる?」
「いや、やめとくよ。そうか、張り紙の単語のナゾがようやく解けたよ。
どこの店にもデカデカと張り出してあるからフシギだったんだ。
へえ、こうやって作るんだ」
「でもこれは売店で買ったやつじゃなくて、今朝採ってきた新鮮なやつさ。
だから一味違うのさ」
体格のいい船長がその体型に似合わない細かい手先の作業を繰り返す。
『TET』と石灰(後に『AUS』とわかる)を『KEBUI』に巻き込み、
出来上がったものを『BOO』と呼ぶらしい。
彼はキレイに出来上がったモノをうれしそうにひけらかし、自慢げに口に含んだ。
チャポチャポと波に揺れ、船底は小気味よい音を立てる。
なにをするでもなく、他愛無い会話が交わされるこのひと時が心地よい。
ああ、ノンビリすぎて、その写真を撮り忘れた。
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