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最終夜 -休業- [Vietnam]

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昼に宿を出れば、フライトのチェックインには充分間に合う。

空港へのアクセスは、シャトルが安くて便利だよ、とフロントのニイチャンに教えてもらっていた。
宿から10分ほど歩いた街の中心に、シャトル・バンや空港タクシーの溜まり場があるという。
荷物ひとつの身としては、ギリギリに出て、急ぎ足で向かっても楽勝の距離だ。

部屋で荷物を詰めながら、時計を見つめ、計算を立てていた。
昨日、夕食を食べそびれたランチの店に、もう一度、行きかったのだ。
開店の11時前に露店に出向き、かき込んで食べて、
急ぎ足でシャトル乗り場へ行く、そして空港へ向かえばフライトには間に合う、
という計算が頭の中で成り立っていた。

あの家族の屋台のご飯で食べ納め、ヴェトナムを去る前のささやかな願いだ。
ところがその計算は思わぬことで狂ってしまった。

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フロントでチェックアウトを済ませ、ニイチャンと話しこむ。

「昨日のバイクの波はスゴかったよ」

「ああ、みんなクルマは買えないからね。それでバイクを買うんだ」

「ヴェトナムでバイクはいくらぐらい?」

「中国製なら新車でもUS$300、日本製の新車なら$1000はするね。
しかも日本製は性能がいいから中古でも高いし、人気があるんだ」

「ここにも中国製品が流れ込んでるのか」

「そう、おかげで手軽に買えるようになったみたいだよ。値崩れしているから」

「でもなんで『混んでいる』ってわかっているのに湖周辺にくりだすのさ?」

「ハハハ、家にいてもエアコンもなくて、暑くて退屈だから、友達を誘って、バイクで出かけるのさ」

「それで二人乗りばかりだったのか」

「そう、カップルだけじゃなくて、友達でも知り合いでも乗っけて出かけるのさ」

「あの排気ガスとノイズじゃ、夕涼みにはならないと思うけどな」

「ぼくもそう思うよ。マスクまでしてね」

そういうとニイチャンは肩をすくめておどけてみせた。
急激な経済成長を遂げるヴェトナム、みなが新しい生活や娯楽を手探りで探している状態なのだろう。

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「そろそろ、出発するよ」

「空港? 気をつけて。ヴェトナムともお別れだね」

「そうなんだ、いろいろとありがとう」

バッグを担ぎ、最後の宿を離れ、ランチの露店を目指した。
7月のハノイは午前中でも暑い。
荷物を背負う背中がすぐに汗ばんだ。
それでもうまくて気分のいい店で食事が出来ることに少しだけ浮き立っていた。

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そこには行き止まりの路地だけがあった。

なかよし家族が切り盛りする露店の姿はなく、交代で夜営業していたBBQの店すらなかった。
「ランチタイムなのに、なんで店がないんだ?」
独り言が口をついて出た。

ア然、としたが、空港に向かう前にしランチを済ませなくてはならない。
格安航空会社のエア・アジアは機内食が出ないし、空港で食事するほどドンの残りも持っていなかった。

ランチを食べるため、別の店を探す。
フォーの店に座り、水を口にすると、答えが見えた。

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今日は日曜。
ビジネスマンも休むこの日はたぶん休業日。

それはささやかな推理でしかなく、今日この国を発つ身としては、確かめる術はなかった。


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