第十夜 -情報- @Hoi An [Vietnam]
ホトンド眠れなかった夜行バスの疲れを解消するため、昼前まで眠りを貪った。
こういうパターンではよく寝過ごして一日を台無しにする。
が、ホイアンでは腹が減って目覚め、台無しから逃れられた。
それにしても朝食べたフォー・ボー・チンはどこに行ってしまったのだろう。
シャワーを浴び、ロビーに降りるとオーストラリア訛りの英語が明るく響いてきた。
「コーヒー、冷たいやつを2つ」
年配の夫婦がロビーのイスに腰掛け、フロントマンにオーダーを告げている。
「こんにちは。オーストラリアからですよね?」
「そうですけど、なぜわかりました?」
「英語がオージー訛りですので」
「というあなたは? アジアのどこからで?」
「日本です、日本人の英語に聞こえないのはシンガポールで覚えた英語だからです」
「そうですか。どうりでユニークな英語を使うと思った。わたしたちはフエから南下してきたところですよ」
「いいですね、わたしはニャチャンから夜行バスで早朝に到着して、仮眠してたところです」
「起き抜けじゃ、暑い中、歩く元気は出ないのでは?
どうです、お急ぎじゃないなら一緒にコーヒー飲みませんか?」
「ランチに出かけようと思っていただけなので、ご一緒します。わたしもカフェ・ダーを」
小さなテーブルを挟んだ隣のイスに腰掛け、アイス・コーヒーのオーダーを告げた。
「ヴェトナム語ができるので?」
「いえ、コーヒーの頼み方だけ、わかるんです、『カフェ・ダー』って」
「あはは、なるほど! 夜行バスはきついでしょ?」
「ですね。旅程を節約するために乗りましたが、キツイです」
「わたしたちはホイアンの後、朝出発で昼間を費やしてニャチャンに向かう予定です。
ニャチャンはどうでしたか?」
同じ宿に泊まったもの同士はこんな風に情報交換を始める。
自分が来た道、見つけた宿、出会った食事・・・
実体験が伴った最新の情報交換はガイドブック以上にホットだ。
「同じ宿」にいるということは予算的にも同じレベルの旅、
通じて旅のレベルも似たスタイルになり、お互いの情報が生きたものになる。
大手チェーンのホテルに泊まっている観光客が、
$5の安宿に泊まって旅している者の情報を耳にしても得るものは少ない。
レストランで食事し、専用車で観光する人たちは、
屋台のうまい飯や少しでも安い両替屋のネタはあまり必要としないからね。
拙い英語でできるだけニャチャンの雰囲気を伝えた。
地元の人たちに人気のフォーの店、住所もないポークチョップの店・・・
行くか行かないかは情報を受け取った者に選択権がある。
フォーの店の住所を知りたがった彼らには、持っていたニャチャンの地図に店の場所を書き込んで渡した。
「ホイアンのあとはどこへ?」
「ダナンは商業都市で見るものがないらしいので、フエまで行ってしまおうと思っています」
「フエは安い宿がたくさんありますよ。安宿街になっているエリアがあります。
あー、地図もホテルカードも捨ててしまった!」
「それは残念」
「エリアの目印を教えますよ。ホテルの名前もわかるので記しますね。
もしそこにいくなら、そのホテルのそばに『50セント』で朝食が食べられる店があるんですよ」
「50セントですか?!?! USドルの?」
「驚くでしょ?朝だけのサービスでこの値段ならトーストとコーヒーだけでも十分だけど、
そのレストランは玉子とサラダまでつくんです。
私たち夫婦は毎日通ってましたよ。50セントですよ、50セント!」
だんなさんがその安さにやけに興奮していた。
もちろん悪い情報じゃないので、ホテル同様探して歩いてもいい。
「ヴェトナム式じゃなくて、ウェスタン・スタイルの朝食ですからね、
ちょっとしたホテル並みの朝食ですよ。
あ~、でも店の名前を覚えてない・・・。
さっき教えたホテル街を歩いていれば、きっと見つかりますよ」
旅先はこういう突発的な情報がおもしろい。
「ホテルの情報もですが、こういう情報はうれしいです」
「いやあ、お互い様ですよ。わたしたちは『バジェット・トラベル』ですから、節約して、ゆっくりと旅を楽しんでます」
「旅をするために彼を60歳前に引退させたんです。『足』が利くうちに」
それまで黙っていた奥さんが口を開いた。
「わたしはまだ若いからいいけど、この人は年だし、太り始めたし・・・
引退してから動けないんじゃ、なにもできないでしょ?
わたしが旅が好きなので、早めに引退してもらったんです」
「その発想がすごいですね。日本人はあまりそういう考えには至らないなあ」
「繰り返しいろいろな場所に行かれるように『バジェット・トラベル』、いわゆる節約した旅をしているんです。
奥さんは安い宿でもいいから、いろいろな場所を歩き、旅を続けたいというので。
今回の旅は3週間ほどの予定でインドシナを巡ります」
「わたしも3週間の旅ですよ。そういう点だと『バジェット・トラベラー』なのかなあ?
日本にも『バジェット・トラベル』という言葉はありますが
『バックパッカー』という言葉のほうがポピュラーですね。
あ、でも奥さんの言い分が強いのは、日本の夫婦も同じですよ」
「あははは、それは世界共通のルールかもしれない!!」
昼下がりの風が吹き抜けるロビーに明るい笑い声が響いた。
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オーストラリアのご夫婦、いいですね!
うらやましい。
by 斗夢 (2008-11-05 05:38)
>斗夢さんへ
ですね~。ご年配でもカップルで動けるのは素敵ですね~
by delfin (2008-11-05 15:44)