第七夜 -市場- @Ho Chi Minh City [Vietnam]
夏のさなかに街を歩く人は少なく、蒸されながら通りを歩く物好きな観光客も目にしなかった。
街には「戦争の跡」といえるものはないに等しい。
メコン・デルタやクチ・トンネルのツアーにでも出向けば、
少しは「戦争のツメ跡」に出会えたのかもしれないが、興味は募らなかった。
それよりも40年近く経過した「戦争のあとの世代」に興味が沸く。
今、ヴェトナムの人々はどんな暮らしをしているのか、リアルに覗いてみることは難しいだろうが、
旅をしながら「普通の暮らし」を垣間見てみたかった。
目的もなくブラついていたが、市場なら「生活」に近い風景が見えるかもしれないと思い立ち、
市内に数箇所ある市場を巡ってみることにした。
宿があるファングーラオ通りの端にある「タンビン市場」、
宿のすぐ南側にある「ヤンシン市場」を後回しにして、
もっとも有名な「ベンタイン市場」を目指した。
ファングーラオ通りは「安宿通り」だった。
両替所からネット・ショップまで隙間を開けずに並んでいて、便利この上ない。
すがる思いで話し掛けたカナダ人カップルに感謝だ。
泊まっているホテルでは「両替はやってない」といわれ、目の前の店へ。
ヴェトナム語で銅あるいは青銅を意味する通貨単位「ドン」は$10で約160,000ドン。
¥100≒15,000ドンと考えれば、メンドくさくなそうだが、
物価を把握していない現状では1万ドンにどれぐらいの価値があるのか、サッパリ状態。
市場なら少しは物価の相場が見えるかもしれない。
観光地としても有名な「ベンタイン市場」は、観光客と地元の人でごった返していたが、
建物の中でエアコンが効いていて快適だ。
Tシャツからスーツ、民芸品からキーホルダー、化粧品に香水、乾物に瓶詰め、生花に青果、
観光客から地元の人の生活用品まで、品物が揃っている。
「戦争」や「社会主義」の貧しさはかけらもない。
ショッピングに意欲が湧かない我が身としては、
なにに使うかわからない調味料や得体の知れない乾物、見慣れない果物を眺めて歩くのが楽しい。
市場の中に屋台の一角があった。
オバチャンが一心不乱に何かを焼いている。
クレープのような薄い皮を手際よく焼くその手に眼が吸い寄せられ、カメラが惹きつけられた。
働いている人をただ見つめ、ただ写真を撮るだけでは失礼。
屋台に座ると、調理しているそれを注文してみた。
「これひとつ、ください。なんていうの?これ?」
「BAN CUON(バン・クオン)よ。いま、できたてを出すわね」
店番をしていた若い女性はキレイな英語で答えてくれた。
どうやらオバチャンは調理専門らしい。
「BAN CUON(バン・クオン)」は蒸し春巻のこと。
ヴェトナム名物の「生春巻」は「GOI CUON(ゴイ・クオン)」、もっともそれは後で調べてわかったことだ。
「これ、なにでできているの?」
「米よ。米を汁状にして焼いているの」
説明の真横で、調理担当のオバチャンは黙々と枚数を重ねている。
ボールからオタマでその汁をすくうと、丸いプレートの上に手際よく広げる。
クレープ屋さんの実演そのものだ。
米クレープが焼き上がると箸を上手に使い、プレートからはがし、広げ、冷ます。
熱を逃がした米プレープに挽肉と刻み野菜の炒めたものを手際よく乗せ、キレイに畳むと完成だ。
すべての行程が手際よく、できあがりも美しい春巻に感嘆した。
添えられたニョクマムやチリソースをつけて食べるとその味に感嘆した。
モッチリした食感がなんとも日本人好みなのだ。
「うまーいい!!」
声に出していうと、オバチャンが笑う。
「いまの日本語の意味は?」
カウンターの向こうからの問いかけ。
「NGON!(ンゴン!)」
慌ててヴェトナム語で「オイシイ」を連呼する。
腰掛けて一息ついているオバチャンが、また笑った。
「気に入った?それならまた来てね。店の番号はコレ。値段はメニューにあるから外国人でも心配ないわよ」
蒸し春巻一人前15,000ドン、どうやらアタリクジ。
オカワリを頼み、話しを聞いていると、親子で店をやっているという。
「おかあさんが焼いてくれて、それをわたしたち、娘が売っているのよ」
「わたしたち?」
「妹がいるのよ。でも店番もしないでほっつき歩いてばかり。さっきまでいたけど、またどっかいっちゃった」
そうグチると、大きな声で名を呼んだ。
その声にあわせるように、母と姉と同じ顔をした女のコが現れた。
「アンタ、ドコいってんのよ、店番しなさいよ」
「えー、休憩時間っていってたじゃーん」
「アンタ、いつも休憩時間じゃない!」
姉に叱咤されると、おもむろにカウンターにもぐりこんだ。
文句をいう姉に比べるとおかあさんは寡黙、しばらくするとまたプレートに白い生地を広げている。
喧騒の市場の中、なんとも微笑ましい風景。
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15,000ドン=100円ですよね。
安くて、おいしそう。去年恵比寿のヴェトナム料理屋さんで
食べたけど、生春巻しか食べなかったような。
もう40年近くなる。そうですね終結が1975年ですから。
by quartier (2008-09-26 07:44)
待望の「普通の暮らし」を垣間見れてよかったですね。
こういう旅は、実に楽しそ。
臨場感たっぷりの旅物語に、引き込まれていますヾ(=^▽^=)ノ
そうそう。
Ryukoままの知り合いが、去年の夏あたりから
ベトナムの日本語学校の先生で、現地に行っています。
きっと、ベトナムの「普通の生活」にも、
すっかりなじんで頑張っているんだろうな~。
by Ryukoまま (2008-09-26 09:55)
>quatierさん
そうですね、食事は大体なんでも¥100でした(笑
春巻もフォーもご飯モノも…
恵比寿?先週ヴェトナム料理食べましたよ。同じ店かな?
生春巻は皮を水で戻すだけなので、日本の家庭でも作れるんですよ。
>Rypkoままさん
お知りあいはヴェトナムのどちらにいるんでしょう?
知り合いがいらっしゃる間に尋ねてみては??
by delfin (2008-09-26 23:49)