第五夜 -情景- @Siem Reap [Cambodia]
神々の像が立ち並ぶ陸橋を閉ざすかのように『南大門』は立っていた。
「大きな街」を意味する『アンコール・トム』(Angkor Tom)への入口でもあるこの門は、
クルマがギリギリ通るほどの幅しかない。
その狭い門の前を我がもの顔で占拠して記念撮影している団体客を跳ね飛ばし、
累々と重なった屍を乗り越えながら、通り抜ける。
アンコール・ワットに浸っている間に、団体客が押し寄せていた。
涼しい午前の時間に広いアンコール・トムを巡ってしまおう、という魂胆だろう。
彼らと共に歩みを進めても、静かに写真は撮れない。
舐めるように一通り見学し、アンコール・トムに別れを告げた。
木々で覆われた道を進む。
10分から15分ほど自転車をこぎ続けていると、唐突に遺跡が現れる。
あるいは道路の右手、あるいは左手に。
自転車を止め、遺跡に歩みを進める。
シャッターを切っては人のいない遺跡を歩く。
そしてまた自転車へ。
そのくりかえし。
キレイに修復が成されている『トマノン』(Tommanon)や『チャウ・サイ・ディヴォーダ』(Chau Say Divoda)。
未完の『タ・ケウ』(Ta Kev)に、ガジュマルや樹木に侵食された『タ・プローム』(Ta Prohm)と、
バラエティ豊かな遺跡劇場は次から次に登場し、自転車乗りを休ませてくれない。
観光客の利便性を図るものだろう、遺跡の間の道路はすべて舗装されている。
自転車の脇をグループを積み込んだバスやバンが猛スピードで走り抜けていく。
国境から続いた穴だらけの土の国道を懐かしく思い返していた。
ほとんどの遺跡の前に出店があり、声高にミネラル・ウォーターやアイスクリームを売っている。
ここでは商売ッ気のないオバチャンがフルーツを売っていた。
「これ、冷たい?」
「冷えてるわよ。切れてるし、食べやすいわよ」
「じゃあ、一個。ここで食べていい?」
木陰に果物を並べたオバチャンの後ろに座って、パイナップルにかじりついた。
道路の向こうの遺跡では、たくさんのグループ客が出たり入ったりしていた。
観光バスから吐き出され、記念写真を撮りまくり、時間になるとバスに吸い込まれ、去っていく。
「すごいね、グループはいつもあんな感じ?」
「そう、バスが去るときが売れる時なのよ」
それぞれが違うグループなのに、決められたルールがあるかのように同じ動きで、なんともフシギな光景。
かつては自分自身もそのフシギな仕事をしていたものなのだなあ、とのんきな感慨にふけっていた。
パイナップルをかじりながら、眺めていると、バスが極端に減りだした。
「そろそろ昼時ね」
夢中で自転車をこいで、夢中で写真を撮っていたら、いつのまにやらランチタイム。
グループは遺跡を離れ、町なかのレストランを目指すのであろう、バスやバンが次々去っていく。
遺跡のノイズが減り、腹がノイズをかきたてていた。
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往時がしのばれます。
それにDNAのせいか、懐かしいような、
ひたりたいような感覚が……
by quartier (2008-09-16 08:52)
最初の写真も最後のもインパクトありますね。
by かいわれ (2008-09-16 22:18)
>quartierさん
ぜひ浸ってください。
治安も悪くないので、観光しやすいですよ!
>かいわれさん
ありがとうございます!
写真は自己流なので、ホメられるとうれしいです!
by delfin (2008-09-17 13:26)